15 新しいタイヤは滑る
足下をすくわれないために
何を今更と思うかも知れませんが、新しいタイヤは滑ります。
だからわかってる!って。と言うと思いますが、本当にすごーく滑るんです。
それは私が以前、BENLY CLで通勤していた頃の話。
タイヤを交換してもらった翌日の通勤途中、ガソリンがリザーブになったのでスタンドで給油を済ませて普通に店を出ようとした時でした。
ガソリンスタンドならどこにでもある細い溝にフロントタイヤがすっぽり入ったのです。
フロントを完全に取られたまま即座に転倒し「ドシャッ!」と歩道に叩き付けられたのです。
損傷状況ですが、私は右腕や肩、右内股打撲等で暫く不自由な生活を強いられ、BENLY CLは、右ウインカーに傷、右バックミラーの超過増し締め、右ヘッドライトステー歪曲(BENLYの弱点、マウントされているプラスチック製ウインカーよりステーの方が軟弱で、コレの交換となるとトップブリッジを外さないといけない。)でした。
この情けない事故の原因として、
(1)タイヤが新しく、ワックスが取れていない滑りやすい状態だった。
(2)溝に対して斜めに通過していた。(どのくらいの角度だったかは不明です。)
(3)タイヤが細い。
(4)速度がゆっくりだった。
が考えられます。
この内、(2)については、ガソリンスタンドへ出入りする際、その進入角度を気にしている人はあまりいないでしょう。私もそれまで普通にやってきたことです。モチロンそれで転けたことは一度もありませんでしたし、たいていの人がそうだと思います。
次に(3)、これは仕方がありません。
それと(4)、これも当然です。
そして(1)、新しいタイヤの宿命なので気を付けるしか、いや、気を付けていたんですが思いもよらない状況でまさに足下をすくわれたのです。原付の軽い車体なのに体制を立て直すヒマは全くなく、滑ったのが分からないほど急速なスリップでフロントタイヤは溝にすっぽり落ち込みました。溝がスチール製であったとはいえ、ゴムの劣化防止のため新品タイヤに塗られているワックスの効果は侮れないなものがあります。
この場合の事故防止対策としては、
(A)タイヤ交換後すぐに安全な所で完全に皮むきをしておく。
(B)タイヤが新しいうちはバイクを押してガソリンスタンドを出入りする。
(C)溝に対して出きる限り垂直に出入りする。
が考えられます。
この内、(A)(B)はあまり現実的ではないので、(C)しか対応策がないということになります。
ここまで読んで、聡明な人なら本当の事故原因がどこにあるか分かるでしょう。本当の事故原因は気を付けていた「つもり」でいた私にあるのです。
新しいタイヤは滑るから気を付けなければならないということは、たいていの人が知っていることですが、私が具体的にどんな事に気を付けていたか思いつくのは、
(ア)速度を押さえて走る。
(イ)急が付く操作はしない。
(ウ)フルバンク等の無理はしない。
(エ)ブレーキングを早めにする。
くらいです。
ガソリンスタンドの溝に対して十分な進入角度をもって出入りする必要があるなんて意識の片隅にもありませんでした。上記の4つを意識することで新品タイヤの危険性全てに対して「気を付けている」と思い込んでいただけなのです。つまり、溝にまつわる危険性については「全く気を付けていなかった」のです。
タイヤ交換後、上記4件を注意してくれるバイク屋さんや知人はいても、ガソリンスタンドへ出入りする時は溝に注意が必要だよと言ってくれる人はまずいないでしょう。
貴方がよく峠へ通う人や新品タイヤで転けた経験のある人なら(A)を実行しているかもしれませんが、たいていの人は「気を付けて走っている」だけだと思います。また、タイヤ交換は頻繁にあることではないので、新品タイヤは滑るということが単なる知識として頭にあるだけで、体が覚えている人は少ないと思うのです。
もちろん私も新しいタイヤは滑るという認識はありましたし、「一皮むける」まで気を付けていたつもりでした。暇さえあれば当然のようにツーリングに出ていた頃は毎年タイヤ交換をしていましたが、(ア)〜(エ)を実行していたために幸いにも転倒をしたことはありませんでした。
しかーし、文字どおり気を付けていたつもりだっただけで、本当に気を付けてはいなかったからあんな憂き目に遭い、ようやく身をもって知ったのです。
自分のビッグバイクはタイヤが太いから大丈夫と思っている人もいると思いますが、タイヤが溝に入り込まなくてもステアリングをとられてバランスを崩したたら、重量の大きいバイクだと体制を立て直すことは困難なのは容易に想像がつきます。
自分のバイクは新品タイヤでないのでOKだと思っている人もいると思いますが、雨天時には同様の危険性下に置かれます。
知識として頭にあるだけでなくそれを実行するには、具体的な操作や方法を知っておく必要がありますが、「溝を横切る時にはできるだけ進入角度を付ける。」という項目を今までの知識に加え普段から実行するよう心がけようと思ったのでした。
誰しもつまらないイモゴケはしたくないものです。これを読んでいる貴方が、私の知らない危険性を知っていたら教えていただけると幸いです。
教訓:溝を横切る時にはできるだけ進入角度を付けること。
(2008.4.5作成)