10 ダメなモノ
ソーゾーするだけでも気持ちが悪い
人には大抵それぞれダメなモノがあって、伊依粒の場合には、あるモノがそれにあたります。ソレは世間一般に「お好み焼き」と呼ばれてございます。(うーっぷ、文字を見ただけで気分が悪くなりそう。)
そう、皆さんご存じの小麦粉を水で溶いた中に野菜や肉、魚介類等をグチャグチャに混ぜ込んだバリウム入りのゲ○みたいなヤツを鉄板で焼くだけという、複雑なのか単純なのかよく分からないモノ。
いわゆる嫌いな食べ物や飲み物はいくつかありますが、その物体だけはそーゆーレベルではありません。これには海よりも深いワケがあって、今回はその辛い過去を解き明かしましょう。
コトの始まりは、まだ伊依粒の祖母が元気であった遠い昔の話しです。我が家は両親共働きであったため、昼食や夕食は祖母が作ってくれていました。で、ある日、祖母が自宅で作ってくれたオコノミヤキに中ったのでございます。
次は、忘れもしない高校3年の時、受験のため希望制補習授業を受けるという無駄な努力をしていた頃に学校近くにあったオコノミヤキ屋へ友人ら3人で行った時に起こりました。店のおばさんがサービスしてくれた烏賊が多すぎたのか、火の通りが不十分だったのか分かりませんが、また「あたぁーりい!」となり、その後、補習授業を欠席する羽目になったのでございます。思えば、あの事故が受験失敗の原因だったのかもしれんなぁ。食中りの苦しさの中、「もう、アレは食べん。」と決意したのでした。それからアレを口にした記憶はございません。
さて、就職をして数年後、ソロツーリングで広島に行ったことがあるんですが、ビジネスホテルにチェックインして夕食を食べようと街中をうろついていたところ「お好み村」という、名の知れた、いわばオコノミヤキ屋の雑居店舗に行き当たり、どうしようか迷ったんですが、歩き回った割には食べ物屋がほとんどなかったのと話しのネタにと意を決して入り、テキトーに店を選んでカウンターに座って「焼きそば」のみを注文したら、店の人を含め周りのみんなが一斉にワタシの方を振り向いて「何で?何をしにきた?」という顔をしたのを覚えています。
世間の目で見ると、うどん屋に入っておにぎりだけを注文したのと同じなのは分かっていましたが、ワタシとしては、メニューに「焼きそば」の文字がきっちりあるわけで、それがおかしいというならメニューに載せるなという気を発散させながら、さっさと食事を済ませ店を後にしたのでございます。ところが・・・。
2度あることは3度ある。3回目の悲劇は、伊依粒がまだ結婚する前、現在のヨメさんと「1SEN YOSHOKU」という名の店に入った時のこと。「洋食」という名前に騙されて入ったその店のメインメニューは、なんとオコノミヤキではありませんか。当然、伊依粒は別のものを注文した訳ですが、ワタシの悲しい過去を知らない彼女は、ごく自然にオコノミヤキを注文。
で、伊依粒の前に出てきたのは「オムソバ」という焼きそばを薄焼き卵で包んだモノ。ところが、周りをくるんでいる薄焼き卵にかかっていたのは、ケチャップではなくお好みソースとマヨネーズのコンビネーション。それを見た瞬間、「ヤバイのでは?」という直感が頭の中で警告を鳴らせたんですが、食べない訳にはいかないので箸でお好みソースとマヨネーズをこすり落として食べたのでございます。
もちろん、目の前では彼女が平然とアレを食べているという絵図。ここで確認ですが、ワタシは、アレを一欠片も口にはしていません。にもかかわらず、その店を出た時点で、伊依粒は顔面蒼白、冷や汗たらたら。食べてもいないのに中るなんていったい・・・。そこから先、どうなったか記憶がございません。
人には精神的バランスを保つため、あまりにも苦しかったり辛かったりした経験を記憶の奥底に封じ込める機能が備わっており、たぶん、そういうワケで思い出せないのだと思ひます。
とにかく、「もう一生、オコノミヤキ屋へは足を踏み入れんんんんん!」と固く固く心に決めて現在に至っているのです。ですから、たとえ100万円を積まれてもアレを食べようとは思ひませんし、決してお好み焼き屋に行くことはあり得ません!また、ソースとマヨネーズのコンビネーションもワタシの食生活に立ち入ることを許可しません。
この話しをすると、10人に8人くらいの人が「じゃあ、たこ焼きはどうなの?」と聞いてきますが、こちらはとりあえずOKです。「形が違うだけでほとんど同じじゃん。」と言われますが、イーエ、うどんときしめんが違うように、たこ焼きとアレは別モンです。あまり考えすぎると、たこ焼きも食べられなくなりそうなので、伊依粒にこのテの質問はしないようにお願いします。
というワケで伊依粒のダメなモノでした。
(2003.1作成、2007.12加筆構成)